横丁たてもの探訪記① 伊勢音頭の瓦
おはらい町の中ほどにあるおかげ横丁が開丁したのは、平成5年。昔ながらの建築様式の建物ばかりなので、意外に新しいな、と思う人も多いかもしれません。
おかげ横丁を作るとき、主題にしたのは「伊勢参り」が最もにぎわった江戸から明治初期の風情をよみがえらせること。建築様式や資材にもこだわり、当時の建物をただ真似るのではなく、再現しようと試みました。
そんな街並みには、あちこちに職人の遊び心が潜んでいます。
伊勢にゆきたい 伊勢路がみたい せめて一生に一度でも
おかげ横丁の定番、伊勢うどんの「ふくすけ」の屋根瓦にあしらわれているのは、伊勢音頭の中でも最も定番の一節。お伊勢さんへの憧れが歌われています。
伊勢音頭とは、三重に伝わる民謡です。
古くは江戸時代の参拝客らが途中の情景を歌った道中歌が時代とともに移り変わり、現在でも市内の夏祭りなどで見ることができます。
そのほか、各地から伊勢を訪れた参拝客らが、この地方の木遣歌や座敷歌などを全国に持ち帰り、地名を冠して呼んだため、非常に多くの唄や踊りを指して「伊勢音頭」という言葉が使われます。
たとえば、かつて外宮と内宮をつなぐ参宮街道で賑わった歓楽街(古市)で披露されていた、長唄に合わせた踊りも「伊勢音頭」と呼ばれていますし、山田地区の芸者たち(山田検番)の座敷踊りも「伊勢音頭」です。
こちらも有名な伊勢音頭の一つ。この一節だけ知っているという方も多いのではないでしょうか。
「伊勢は津の港があることで参拝客が集まるし、津は伊勢神宮への参拝客が多いことで賑わう」といった意味です。
坂は照るてる鈴鹿はくもる あいの土山雨が降る
お伊勢七たび熊野へ三たび あたごさまへは月まいり
「お伊勢七たび熊野へ三たび あたごさまへは月まいり」は十返舎一九の東海道中膝栗毛にも登場します。
これらのほかにも、横丁内には伊勢音頭の書かれた瓦が並びます。
少し目線を上げて、ぜひ探してみてください。
こゝのやかたは 目出度いやかた 鶴が御門に巣をかける
二八乙女の手で焼き添えて あぢも二見のつぼさゞゑ
ふるなるひかるつよいかみなり
六軒茶屋の曲がりとで 紅葉のやうな手をつい乙(て)
糸より細い声を出し 皆様左様なら
ご機嫌よろしうお静かに また来春も来ておくれ
来春くるやこないやら 姉さんいるやらいないやら
これが別れの盃と 思えば涙が先に建つ 雨も十日も降ればよい
こちらは道中別れの伊勢音頭。
おかげ横丁にも、また来てくださいね。